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大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)15号 判決 1978年10月12日

原告 株式会社三和機械製作所

右代表者代表取締役 今西正一

原告(亡今西勇治郎訴訟承継人) 今西正一

右原告両名訴訟代理人弁護士 酒井信雄

同 河辺幸雄

被告 東大阪市長 伏見格之助

右訴訟代理人弁護士 市原邦夫

主文

一  原告らの訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和五〇年八月七日、道路法一六条に基づく管理行為として、市道近江堂第一五号線の道路幅員を道路台帳登載の二・四三メートルから〇・九一メートルに変更した処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前)

主文同旨

(本案)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因(原告ら)

1  承継前の原告今西勇治郎は、東大阪市近江堂一丁目五五〇番地、宅地八〇〇平方メートル(以下原告所有地という。)を所有していたところ、昭和五一年五月二〇日死亡したので、原告今西正一が相続により右土地所有権を取得した。

原告株式会社三和機械製作所(以下原告会社という。)は、右土地上において工場、事務所を経営している。

2(一)  原告所有地と訴外寺西幸治郎所有の東大阪市近江堂一丁目五四六番、宅地三四七・一〇平方メートルの土地(以下寺西所有地という。)との間には、大正九年三月三一日設定の市道近江堂第一五号線(以下本件道路という。)が存在し、同市備え付けの道路台帳によれば、同道路の幅員は二・四三メートルと記載されている。

(二) 本件道路は、設定当初右道路台帳登載の二・四三メートルの幅員が存在したが、その後寺西により次に述べるように三回にわたり侵害され、狭小となった。すなわち、同人は大正六年四月前記土地を買い受けて同土地に居住しているものであるが、当初同人所有地と本件道路との間には板塀が設置され、その外側には側溝が設けられていたところ、同人は、昭和一三年ころ右板塀を撤去して、側溝の外側にトタン塀を設置し、これが昭和二六年の台風で倒壊するとさらに外側に五〇センチメートル程度出してトタン塀を設置し、さらに昭和五〇年七月二六日ころ右トタン塀を撤去してその外側に五〇センチメートル程度出してブロック塀を設置した。

(三) 原告らは右工事に際し、工事が完成すれば本件道路に自動車の乗り入れもできなくなるとして被告に善処方を願い出たところ、被告は昭和五〇年八月七日本件道路と寺西所有地との境界は前記寺西のブロック塀までの線であると認定し、そこに境界杭を設置して、本件道路の幅員を〇・九一メートルに変更した。

(四) 本件道路境界杭設置行為は、事実行為ではあるが、被告により公権力の行使としてなされた行政処分というべきであり、また、原告らに対し、一方的に受忍を強要する公定力をもって本件道路の幅員を変更したものというべきであるから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるものである。

3  しかしながら、被告の本件道路境界杭の設置行為(以下道路明示ともいう。)は、以下に述べるように、違法または不当である。すなわち、

(一) 市道を変更する場合は、道路法八条の規定する路線の認定の手続に準じて議会の議決を経たうえ同法九条による公示をしなければならないとされているところ(同法一〇条三項)、道路の幅員の変更は、右の路線の変更そのものではないが、道路の認定変更には幅員の変更を伴うことが不可欠であるから、これも右各法条に則り、またはこれに準じて行なわなければならないというべきである。しかるに被告は、何らこれらの手続を経ることなく本件道路の幅員を前記のとおり変更したから手続的に違法である。

(二) 仮りに、道路の幅員の変更が道路法一〇条三項に該当せず、同法一八条一項にあたるとしても、

(1) 被告は、本件道路を管理すべき責任を負っている(同法一六条一項)にもかかわらず、これを果さず、本件道路の幅員が狭小となったのを不当に是認したものであり、

(2) 本件道路の幅員が〇・九一メートルと変更されたことによって同道路における自動車の通行を不可能としたから、被告は円滑な交通の確保を規定している同法二九条に違反し、また、同法三〇条一項一号、道路構造令五条五項に規定する幅員の基準にも違反したものである。

(三) 被告の本件道路明示は、何を根拠にこれをなしたのか全く不明である。本来、道路の幅員が不明の場合は、関係者協議の上明示し、それができないときは明示をしないのが慣例である。しかるに、本件道路明示はこれらの協議等を全くなすことなく、道路台帳の幅員を全く無視してなされたものである。

4  よって、原告らは被告に対し、被告が道路法一六条一項に基づく道路の管理責任者として昭和五〇年八月七日になした、本件道路の幅員を道路台帳登載の二・四三メートルから〇・九一メートルに変更した処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件道路について原告ら主張のような幅員変更処分は何らなされていないから原告らの請求は抗告訴訟の対象となる行政処分を欠き、却下されるべきである。すなわち、本件道路は大正九年三月旧弥刀村村道として認定され、その後町村合併等を経て、昭和四二年二月一日より東大阪市に引き継がれて今日に至っているものであるが、認定当初より幅員は三尺(〇・九一メートル)と定められ、また、昭和三二年四月承継前の原告今西勇治郎外一名より明示申請がなされた際に、被告は本件道路の幅員を〇・九一メートルと明示したのに対し関係者の間から何ら異議も出なかった。これらの経緯から明らかなように、本件道路の幅員は、認定当初から〇・九一メートル(三尺)であったのであり、これがその後も変更されることなく今日に至っているものである。従って、原告の主張する本件道路境界杭の設置は、本件認定道路の幅員に従って明示をなしたものに過ぎないから幅員変更処分なるものは存在しない。

2  仮りに本件道路境界杭の設置が幅員変更処分にあたるとしても、これにより原告らが被る不利益は自動車の出入りが困難になるなどといった事実上のものに止まるから、原告らには原告適格がなく、本件訴えは不適法である。

三  請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因第1項、同第2項(一)の事実はいずれも認める。

但し、道路台帳と記された図面は、東大阪市が本件道路を引き継ぐ際に道路台帳の引き継ぎがなされなかったため、正式な道路台帳が作成されるまでの間、税務関係備え付けの地積図の写しに道路、起点、終点、幅員等を書入れ、道路台帳付属図面綴りに綴り込み、道路関係資料として利用し、閲覧にも供しているものであって、道路法に定める正規の道路台帳ではなく、便宜上作成されたものである。また、右図面に本件道路の幅員が二・四三メートルと記載されているのは〇・九一メートルの誤記である。

同項(二)の事実は不知。

同項(三)の事実のうち、被告が原告ら主張の日時に本件道路の幅員〇・九一メートルにしたがい境界杭を設置したことは認め、その余は争う。

同項(四)は争う。

2  同第3項(一)ないし(三)はいずれも争う。

仮りに本件道路明示行為が幅員変更処分にあたるとしても、道路の幅員の変更は道路法一〇条三項に規定する路線の変更ではなく、同法一八条一項にいう道路の区域の変更に該当し、道路の区域の決定と同様、道路管理者たる東大阪市が行なうものであるが(同法一六条一項)、その権限の行使は、同法九七条により被告市長が行なうこととされており、議会の議決等の手続を必要としない。また、同法一六条一項は、市道の管理はその路線の存する市が行なうことを定めただけであって、管理責任の内容を定めたものではなく、同法二九条、三〇条は、いずれも道路の一般的、抽象的基準を定めたものであるから、右各条項が直接行政処分の内容を規定しているものと解することはできない。

四  本案前の主張に対する原告らの反論

1  被告は本件道路について道路台帳は存在しない旨主張するが、そうとすれば、私有地所有者との協議によって道路明示をしなければならないというべきところ、被告は、一方的に本件境界杭の設置に及んだものであるから、これによって新たに幅員を決定し、または変更する処分をなしたものというべきである。

2  本件道路の幅員の変更によって同道路への自動車の乗り入れは困難となり、日常生活上または営業上専らその交通を本件道路に依存している原告らは多大の不利益を被るに至ったもので、かかる不利益は事実上のものとはいえ、保護されるに値いする利益というべきであるから、原告らには行政事件訴訟法九条の規定する原告適格があるものというべきである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第1項、同第2項(一)の事実および被告が本件道路の幅員を〇・九一メートルにしたがい境界杭を設置したことはいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで原告らは、被告のなした右境界杭設置行為は行政事件訴訟法三条の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する旨主張するので、まずこの点について判断する。なお、原告らは、本件境界杭設置行為のみをとらえて同条に該当する行為である旨主張しているかのようであるが、後記のように、東大阪市における道路明示は境界杭の設置と明示書および明示指令図の交付によって行なわれるものとされているから、原告らはこれら一連の行為を含めて同条に該当する行為である旨主張していると解せられる。そこで以下これを前提として判断する。

《証拠省略》によると、次の事実が認められる。すなわち、東大阪市において行なわれる道路の境界明示は、昭和四二年六月一日施行の「道路敷等の境界の明示及び車両制限令の規定による道路の現況証明取扱要綱」の定めるところに従い、且つ、それに従前の方法をも加味して行なわれているが、右要綱によれば、道路の境界の明示は大要次の要領・手続に従って行なうものとされている。すなわち、(1)道路明示は、申請人において一定の様式を備えた境界明示の申請書に、土地登記簿謄本、登記所備え付けの地図の写し、対象土地の拡大見取図等を添付してこれをなすこと、(2)東大阪市は、右申請書を受理したときは、右添付書類を調査し、なお申請地番および付近地に従前明示をした例があればそれらをも参考とし、予め申請者または現場立会人に立会いの機会を与えたうえ現場調査を行ない、境界が確定した場合はこれを表示する杭を打ち込み、その結果を申請者および関係者に説明し、申請者および関係者より被告市長宛に承諾書を提出させること、(3)被告は、申請者に対して明示書および境界標示杭の所在、その間隔、公有地と私有地との境界線等を明らかにした明示指令図を交付すること。本件道路境界杭設置行為は寺西の道路境界明示申請に基づき行なわれた道路の境界明示であり、右明示は、境界を確定する資料として「旧弥刀村道路認定図府廳ノ写」と題する書面を参考とし、また、昭和三二年四月今西勇治郎および原告今西正一申請にかかる原告所有地と本件道路の境界明示がすでになされていたため原告今西の承諾書は必要としないものとされたことのほかは右要綱に従ってなされた。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右に認定したところによると、本件明示行為は、東大阪市が本件道路の管理行為の一環として、前記要綱に従い同道路と私有地との境界を明らかにし、もって境界をめぐる紛争を事前に回避し、あわせて本件道路の管理保全を図ることを目的として行なったものということができる。

ところで、取消訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、行政庁の行なう行為のうち、行政庁が法の定めた優越的な地位に基づき権力的な意思活動としてするような行為で、それにより個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接に何らかの影響を与えるような行為をいうものと解すべきであるが、被告のなした本件道路明示行為は、右のいずれにも該当しないというべきである。すなわち、道路の区域の決定、変更は、当該道路の管理者によって建設省令で定めるところにより、これを公示し、且つ、これを表示した図面を一定の場所において一般の縦覧に供することによってなすものとされているから(道路法一八条一項)、この規定によらずに実質的に道路の区域の決定、変更の効果を生じさせるような行為はたとえ道路の管理者といえどもなし得ないと解されるし、しかも道路の明示について具体的にこれを規定し、且つ、その効果について定めている法律は何ら存在しないから、道路明示によって法的に道路の区域が決定変更され、ひいては隣接地の所有権の範囲も確定されたことになるとはとうてい解せられないのである。また、本件明示は、前記のように東大阪市の道路管理権限の一環としてなされたものというべきであるが、前記認定の事実によれば、道路明示は私有地の所有者による申請をまって行なわれ、現地調査および明示杭の設置に際しては申請人に立会いの機会が与えられ、右明示杭の設置にあたっては申請人および関係人に対して被告より説明がなされ、これらの者から明示について異議がない旨の承諾書が提出されて明示書・同指令図が申請人に交付されることとされており、このような一連の手続を経て道路明示がなされることからすると、たとえ右道路明示が法律に基づいてなされる行政庁の行為にあたるとしても、これをもって優越的な地位に基づく権力的な意思活動であるとはとうてい考えられないのである。

そうすると、本件道路明示は、取消訴訟の対象となるべき行政事件訴訟法三条にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当しないものというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく右明示に基づく本件道路の幅員変更処分の取消を求める原告らの本件訴えは不適法である。

三  よって原告らの本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 寺崎次郎 近藤寿邦)

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